samedi 30 août 2008

サトウキビ畑のカニア1



《 ピションさんからのメール 》

 ぼくの本を一冊分、日本語に訳してもらうとしたら、いくらぐらい掛かりますか?

ある日こんなメールが届いた。
フレデリック・ピションさんはフランスのリヨンの出身で、今は、フランスの海外領土県であるグアドループという島に住んでいる。
「グアドループ?」
どこにあるんだろう?

 カリブ海東部にある小アンティル諸島の中にある島。
主島グアドループと、周辺の5つの小さな島から成っている。
グアドループは蝶の形をしていて、西側の火山島バステール、東側の珊瑚島のグランドテールに別れている。
グアドループの総人口は43万5千人。
総面積は1780平方メートル、首都はバステールという町。

 ピションさんは、当時ジャーナリストとして活躍していた。ナショナル・ジオグラフィックという雑誌に記事や写真を投稿したり、地元の観光雑誌を作成したりしていた。そして、こどものための本を書いている。すでに数冊が出版され、中学生のために講演を行ったりもしている。

 原書を取り寄せてみた。
ヴィオレット・オージェさんの激しい色の表紙が心を惹いた。ヴィオレットさんはピションさんの奥さんとのこと。地元では売れっ子の画家さん。この激しいカリブ風のイラストが、日本のこどもにもうけるだろうか?

 たしかに翻訳の会社をやってはいて、ピションさんはインターネットでわたしの会社を見つけて連絡してくれた。だが、それまで一冊の本を丸ごと訳したことはなかった。
 わたしはふだんは実務翻訳といって、契約書・特許申請書類・レストランのメニュー・インターネットサイトに載せる観光案内・ワインの宣伝、私信などなど《書類》を訳す作業をしている。
フランス語から日本語に訳す場合1単語がいくら、日本語からフランス語に訳す場合1字いくらで計算する。(パソコンの機能で算出されことが多いが、1字ずつ数えなければならない書類もある)
クライアントに見積もりを出して、了解を得てから、たいていの場合1週間以内で訳す仕事だ。

 文芸翻訳の場合、まずは、《企画》を作って、その本をアピールし、出版を受け入れてくれ、同時に日本での出版権を獲得してくれる出版社を捜さなければならない。一度も本を丸ごと一冊訳したことのない無名の翻訳者が、全部訳してから提出しても、出版社がすんなり読んでくれるとは考えられない。
 そのことをピションさんに説明した上で、とりあえず、わたしが本のあらすじと感想・人物紹介・作者紹介などをまとめた《レジュメ」と言われるものを書いて、とりあえずそれを読んでくれる相手を探すことから始めようということになった。そこで、その出版社が、別な翻訳者を指名する可能性もあるので、自分の名前の本が出ようなどとは、期待してはいけないのである。

                  つづく

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